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◆ 「フィギュア事件」 .
〔裁判〕(大阪高裁平成10年07月31日判決 公刊物未搭載)
一 本件模型原型の著作物性
1 漫画のキャラクターは紙面にコマ毎に平面的に表現されそれを読者が連続的に読み取ることによって一定の容姿・姿態・装備等を備えた個性あるものとして判断し理解するものであるから、原作者が当該キャラクターに対して有しているイメージの全体像が常にすべて紙面に表現されるとは限らず、その表現されない部分は読者が自由に想像することに委ねられている。
したがって、右キャラクターを忠実に模型等の立体に制作しようとする場合には、制作者が、平面的かつ非連続的に表現された漫画の1コマ1コマから原作者の有するイメージに出来るだけ近いキャラクターの全体像を想像し、かつ、紙面に表現されない部分についても表現された部分と齟齬のないよう想像力を働かせて把握することが要請されるから、右の作業は単に紙面に表現されたものをそのまま忠実に再現するのとは異なり、その平面に表現された内容から一定の想像力・理解力・感性を働かせて統一的な立体像を制作するという創造的な作用を必然的に伴うものである。
そして、原作者が右キャラクターの細部やバランス等を具体的に指定していない以上、模型等の制作者が原画のイメージや読者の人気等をも考慮して独自の解釈の下にそのサイズやバランス等を新たに創造することになるから、その点においても二次元から三次元に転換する模型等の制作には制作者の思想や感情を表現する創作としての一面があることは否定できない。
2 本件についてこれをみるに、本件模型の制作が、同一の原画を立体化したものでありながら、他社製の模型原型と比較して独自の解釈や表現を有していることは、原判決35頁3行目から同40頁7行目までに認定のとおりである。
してみると、本件模型原型は、漫画の原画を忠実に再現した複製というに止まらず、原告の造型師としての感性や解釈に基づく独自の創作作用、すなわち、思想・感情の創作的表現としての一面を有する造形物というべきであって、二次的著作物に当たるものということができる。
◆ 「食玩事件」 .
〔裁判〕(大阪高裁平成17年07月28日判決・判タ1205号254頁以下)
≪動物シリーズ≫
前記認定のとおり,本件動物フィギュアは,市販の動物図鑑,鳥類図鑑等をもとに,動物の形状等を,可能な限り,実際の動物と同様に立体的に表現し,色彩も,実際の動物と同様の色,模様が付されたものであり,極めて精巧なものであって,一定の美的感覚を備えた一般人を基準に,相当程度の美術性を備えていると評価されるものといえる。このことは,前記認定のとおり,原告の制作に係る各種フィギュアが各地の美術館等で展示され,高い評価を受けていることからも裏付けられる。
しかしながら,上記のとおり,本件動物フィギュアは,実際の動物の形状,色彩等を忠実に再現した模型であり,動物の姿勢,ポーズ等も,市販の図鑑等に収録された絵や写真に一般的に見られるものにすぎず,制作に当たった造形師が独自の解釈,アレンジを加えたというような事情は見当たらない(なお,甲第51号証によれば,本件動物フィギュアの中には,あえて実際の動物と異なる形状等を採用しているものも存在するが,これは,美術性を高めるためにデフォルメしたというよりも,主に,型抜きの都合や,カプセルに収まる寸法を確保するなどの製造工程上の理由によるものと認められる。)。したがって,本件動物フィギュアには,制作者の個性が強く表出されているということはできず,その創作性は,さほど高くないといわざるを得ない。
してみると,本件動物フィギュアに係る模型原型は,一定の美的感覚を備えた一般人を基準に,純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を具備していると評価されるとまではいえず,著作物には該当しないと解される。
≪アリスシリーズ≫
前記認定のとおり,本件アリスフィギュアは,テニエルの挿絵を立体化したものである。
本件アリスフィギュアについても,本件動物フィギュア及び本件妖怪フィギュアと同様に,極めて精巧なものであって,一定の美的感覚を備えた一般人を基準に,相当程度の美術性を備えていると評価されるものといえる。
しかしながら,本件アリスフィギュアは,平面的に描かれたテニエルの挿絵をもとに立体的な模型を制作する過程において,制作者の思想,感情が反映されるものであるから,創作性がないわけではないが,前記認定のとおり,本件アリスフィギュアは,テニエルの挿絵を忠実に立体化したものであり,立体化に際して制作者独自の解釈,アレンジがされたとはいえない(この点において,本件妖怪フィギュアとは事情が異なる。)ことや,色彩についても,通常テニエルの挿絵に彩色する場合になされるであろう,ごく一般的な彩色の域を出ていないことを考慮すれば,本件アリスフィギュアには,テニエルの原画を立体化する制作過程において,制作者の個性が強く表出されているとまではいえず,その創作性は,さほど高くないといわざるを得ない(ただし,前記認定のとおり,他にもテニエルの挿絵に彩色したものがあるが,証拠上,これらがどのような色であったかは判然としない。また,一部には背景ないし場面を含めて造型されたものもあるが(例えば「チェシャ猫」の木),これらの背景も,もともとテニエルの挿絵に描かれていたものである。)。
してみると,本件アリスフィギュアに係る模型原型は,極めて精巧なものであるけれども,一定の美的感覚を備えた一般人を基準に,いまだ純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を具備していると評価されるとまではいえず,応用美術の著作物には該当しないと解される。
≪妖怪フィギュア≫
本件妖怪フィギュアは,本件動物フィギュアと異なり,空想上の妖怪を造形したものである。
確かに,前記認定のとおり,本件妖怪フィギュアのなかには,石燕の「画図百鬼夜行」を原画とするものもある。
しかし,平面的な絵画をもとに立体的な模型を制作する場合には,制作者は,絵画に描かれた妖怪の全体像を想像力を駆使して把握し,絵画に描かれていない部分についても,描かれた部分と食い違いや違和感が生じないように構成する必要があるから,その制作過程においては,制作者の想像力ないし感性が介在し,制作者の思想,感情が反映されるということができる。
そして,前記認定のとおり,本件妖怪フィギュアは,石燕の原画を忠実に立体化したものではなく,随所に制作者独自の解釈,アレンジが加えられていること,妖怪本体のほかに,制作者において独自に設定した背景ないし場面も含めて構成されていること(特に,前記認定の「鎌鼬」,「河童」や,「土蜘蛛(つちぐも)」が源頼光及び渡辺綱に退治され,斬り裂かれた腹から多数の髑髏(どくろ)がはみ出している場面(甲第52号証)などは,ある種の物語性を帯びた造型であると評することさえも可能であって,著しく独創的であると評価することができる。),色彩についても独特な彩色をしたものがあることを考慮すれば,本件妖怪フィギュアには,石燕の原画を立体化する制作過程において,制作者の個性が強く表出されているということができ,高度の創作性が認められる。
また,本件妖怪フィギュアのうち,石燕の「画図百鬼夜行」を原画としないものについては,制作者において,空想上の妖怪を独自に造形したものであって,高度の創作性が認められることはいうまでもない。
そして,前記認定のとおり,本件妖怪フィギュアは,極めて精巧なものであり,一部のフィギュア収集家の収集,鑑賞の対象となるにとどまらず,一般的な美的鑑賞の対象ともなるような,相当程度の美術性を備えているということができる。
以上によれば,本件妖怪フィギュアに係る模型原型は,石燕の「画図百鬼夜行」を原画とするものと,そうでないもののいずれにおいても,一定の美的感覚を備えた一般人を基準に,純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を具備していると評価されるものと認められるから,応用美術の著作物に該当するというのが相当である。
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