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 ■ デジタル編集物と、同一性保持権の有り様  .



【概要】

イラストも、写真も、デジタルの時代。では、それらイラストや写真の画像データを、ひとつのポリシーに基づいて多数収めた場合、その格納されたファイルの使用方法や、閲覧の順序といった【編集方針】がどの程度保護されるのか? というのが今回のテーマです。

結論的には、デジタル編集物といえども、一部のみの使用は可能であり、そして、「一部使用」といえる限りにおいては、同一性保持権侵害の問題は生じない、との趣旨を述べた裁判例があります。

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≪デジタル編集物の格納ファイルの並び順と、作者の権利≫

あるデジタル編集物(編集著作物)が、「ABCD」の4つのコンテンツから構成されており、その順序でファイルが格納されているとしましょう。この時、この編集物の譲渡(著作権の譲渡)を受けた者が、順序を変えて、「ADCB」と並べ替えて利用する行為は、作品の製作者(原著作者)の何がしかの権利を侵害するのでしょうか?

この点については、「日めくりカレンダー事件」(知財高裁平成20年06月23日判決 平成20(ネ)10008/〔原審〕東京地判平成19年12月06日)が参考となります。

写真家が、365日にそれぞれ対応した画像データ(花の写真)を、そのような利用をするとの企画(WEB上での、花の画像による日めくりカレンダー企画)とセットで販売したところ、企業側が、毎日更新(日めくり)ではなく、週に一度の更新に際して個別データを利用したとの事案につき、裁判所は、一群のまとまりのある当該提供ファイルが編集著作物である場合でも、編集著作物の「一部を使用している」のに過ぎないとして、同一性保持権の侵害を否定しました。




≪個別的な対応関係は、崩れていない≫


ただ、上記裁判例を、デジタルデータの編集物の場合、直ちに「好き勝手に抜き出して利用しても良い」と理解するのは危険です。

確かに、事業者(著作権の譲受人)は、本のページを一ページずつめくるかのように、個別データをその順序に従った利用はしていませんでした。しかし、この事案の特質として、例えば、本の図鑑の36ページをめくれば像の記事があり、57ページをめくればライオンの記事があり、77ページをめくればスペースシャトルの記事があるというような対応関係そのものを崩すことなく、素材データが利用されていたとの事情があります。

具体的には、週に一度の更新(規則性をもった使用)に際して、その特定の日に対応した(著作者が対応させようとしていた)個別データをおおよそ利用(対応関係の保持)していたことが事実認定されており、このような利用方法であったからこそ、「いわば編集著作物たる本件写真集につき公衆送信の方法によりその一部を使用しているものであり、その際に、控訴人から提供を受けた写真の内容に変更を加えたことはない」と判断されたといえると考えられます。




≪残された課題は、大きい≫


ただ、編集著作物の一部使用なのか、同一性保持権の侵害的利用なのかについては、なお判断に難しいところがあります。実際問題として、先の比喩のようにページとコンテンツの対応関係さえ維持しておけば、「一部使用」と即断できるのでしょうか?

本件では、【対応関係の保持】だけでなく、週に一度の更新における利用というように【規則性】があります。では、利用頻度の点で【規則性】がなくばらばらであったとしたら、なお、日付けとコンテンツとの【対応関係】があったとしても、「一部使用」と判断されたでしょうか。これについては、今後に残された課題のように感じます。


更に言えば、そもそも、編集著作物は、「その素材の選択又は配列によって創作性を有するもの」(12条1項)を言います。

そして、「編集著作物やデータベースの著作物に係る権利が及ぶためには、必ずしも、その全体が利用されることまでは求められませんが、選択・配列、体系的構成に係る創作性が利用されているという側面が要求されるため、ある程度の割合のものが利用されることが必要」なのです(作花文雄『著作権法講座』CRIC・75頁)。

本件の例にあてはめれば、仮に、予定された日付けに全く非対応の個別データの利用であった場合、「配列」においては(編集)著作者の創作性を感得することはできないといえます。そうすると、残るは「選択」の創作性を感得できるかが問題となりますが、本件のように、素材の利用数が極少数であると、本当に、大本の編集物の「素材の選択」における創作性を感得できるのでしょうか?

例えば、百人一首から、二つの歌を抜き出して選んだケースにおいて、その二首の選択から、「百人一首の選択方法をパクッタもの」との関係を感じることができるのでしょうか?

そのうえ、別の素材データまで利用して独自の編集を組んだ場合には? 多くの場合、編集著作物の翻案権侵害や、同一性保持剣の侵害というより、もはや、新たな編集物の創作と判断されるのではないでしょうか。



以上のように、編集著作物に関わるる権利侵害の主張というのは、なかなか難しいということを十分理解しておくべきでしょう。編集著作物については、編集著作権が、いったい何に対して、どの部分について生じる権利なのか、誤解が生じやすいので、確認しておくことをお勧めします。





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 ■ArchiveSelection   参考資料 .   


◆ 「日めくりカレンダー事件」 .
〔裁判〕(知財高裁平成20年06月23日判決 平成20(ネ)10008


・・・各配信開始日に、概ね7枚に1枚の割合で、控訴人〔原著作者〕指定の応答日前後(ただし、正確に対応しているわけではない)配信しているのであって、いわば編集著作物たる本件写真集につき公衆送信の方法によりその一部を使用しているものであり、その際に、控訴人から提供を受けた写真の内容に変更を加えたことはないものである。

そうすると、・・・被控訴人〔著作権の譲受人〕の上記配信行為が本件写真集に対する控訴人の同一性保持権を侵害したと認めることはできない(毎日別の写真を日めくりで配信すべきか否かは、基本的には控訴人と被控訴人間の契約関係において処理すべき問題であり、前記2認定の事実関係からすると、そのような合意がなされたとまでみとめることもできない)。




◆ 【余談】 契約についての甘い認識に、ご注意を .


実際問題として、本件の裁判例では、契約に対する甘い認識が、「編集著作物の著作者としての同一性保持権」が侵害されたなどという、あまり耳にしない主張に繋がったのではないかと思われます。クリエーターは、自分の作品が自分の思う形で利用されない場合、「著作権侵害だ!」と主張しがちですが、その心情を慮ることは当然として、代理人弁護士は、その心情に流されないことが大事です。然るに、本件では、代理人が、依頼人の願望や主張に引きずられて、為すべき法的主張を怠り、真の争点を見失ってしまったのではないかと感じます。

本件では、(控訴審)裁判所も括弧書きでわざわざ付言したように、「毎日別の写真を日めくりで配信すべきか否かは、基本的には控訴人と被控訴人間の契約関係において処理すべき問題であり」、主戦場は、この「毎日更新による使用態様」が契約条件となっていたか否かに狙いを定めるべきだったのです。平たく言えば、無理して著作権の土俵で争うのではなく、契約法の土俵で争うべきだったのです。

一審地裁でも、「本件事案の紛争の実体は,原告が,本件写真集の発表の手段として,本件サイトにおいて,本件写真集中の花の写真が『日めくりカレンダー』として画像配信されることを期待していたのに対して,被告による本件配信行為の内容が結果的にその期待に添うものではなかったという行き違いに端を発したものであることに鑑み当裁判所はまず争点3 (本件配信行為について,原告の明示又は黙示の同意があったか)について判断することが相当であると考える」と指摘されているところです。

この観点からみると、写真家(原告)側には、お金のことを気にする主張が強く現れ過ぎているように感じです。

例えば、第一弾の本件「花の写真」の評判次第によっては、第二弾として「風景写真」で同様の企画をするとの話であったと事実認定されている中で、毎日更新ではなく週一更新であるなら、第二弾の「風景写真」を購入するか、第一弾の「花の写真」の代金を増額改訂してくれとの要望が見え隠れするのは、如何なものでしょうか。このような事情は、上手く処理しておかないと、当初の契約内容に関して、写真家にとって有利な認定には結びつかないものであると思います。

ともあれ、本事案の教訓を、クリエーターの立場に立ってアドバイスするとすれば、どうしても譲れないコンセプトがあるのであれば、それは契約書上必ず明記しておくこと、です。






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