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 ■ 広告代理店の、広告主に対する損害賠償責任  .



【概要】

広告の製作過程というのは、広告主が、広告代理店に制作を依頼し、その代理店が、個々の素材の作成を下請けに出す(再下請けなどは省略)という構造にあるようです。この場合、細かな法律関係を省きますと、出来上がった広告を利用するのは広告主ですから、権利処理が不十分なケースにおいてそのまま権利処理を適切にせぬまま当該広告が利用すると、広告主が著作権を侵害することになってしまいます。

では、広告主は、著作権者に賠償を支払った場合、果たして、適切な権利処理をしなかった広告代理店に対して、損害の補償を要求できるのでしょうか?

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≪裁判例は、代理店の責任を肯定≫


結論からいえば、東京地裁平成20年4月18日判決において、賠償義務を肯定する趣旨の判断が示されています。

但し、著作権侵害に関する賠償義務を肯定した判決ではないことに注意が必要です。あくまでも、この判決は、契約責任の一環として、債務不履行(及び不法行為)による損害として構成し、その通常損害の範囲で3000万円あまりの損害賠償責任を肯定しているのです。

このことは、損害の項目として挙げられているものをみても明らかです。

 @著作権者に対して支払った和解金1200万円
 Aパッケージを差しかえるために要した費用1979万5007円
 B著作権者との間の訴訟での弁護士費用420万円
 C広告代理店との間の訴訟での弁護士費用500万円 (⇒因果関係があるのは270万円)

これらの@からBに関して、加重的な過失相殺をした結果、2742万9004円。これに、C270万円を加えて、3012万9004円との計算です。

つまり、Aの「差し替えに要した費用」が一番巨額であり、これが主たる賠償額の構成要素になっている点において、一般の債務不履行による損害賠償事案と大差がないことを見て取れるのです。言い換えれば、著作権等の侵害に対する補償(求償)であれば、@とBを中心とした問題になるはずなのです。




≪権利処理を適切に行なう契約責任≫


上記の結論を支持する上で、法律構成としても、次のように説示されています。

まず、合意内容を認定しています。

即ち、「当初の広告原稿やパッケージ原稿の作成に被告が関与していた時点では、被告の関与の際に、品番ごとに翻案の許諾及び著作者人格権が行使されないように権利処理を行うことが合意されていたが、平成12年4月以降他の広告社や原告〔広告主〕自らがデザインと担当し、被告が広告掲載の取次ぎのみに関与し、パッケージには全く関与しなくなった時点からは、被告〔代理店〕が広告掲載の取次ぎをしたデザインのものが広告、リーフレット及びパッケージに使用することができるように、翻案の許諾を得、かつ、著作者人格権が行使されないように権利処理を行うことが、品番ごとに、黙示に合意されたものと認められる」と述べております。


ついで、かかる「権利処理を適切に行う契約責任」を踏まえて、「被告〔代理店〕は、・・・広告、リーフレット及びパッケージに使用することができるように、著作者から翻案の許諾を得、かつ、著作者人格権が行使されないように権利処理を行う義務があり、このような権利処理が行われていなかったことを認識し又は認識し得たときは、契約による信義則上、原告〔広告主〕にその使用をしないよう連絡するなどの方法により、原告〔広告主〕に発生する被害の拡大を防止する義務を負っていたものである」と、債務不履行責任及び不法行為責任へとつなげています。

おそらく、裁判官が契約法に造詣が深かったのでしょう。判示にある「被害の拡大を防止する義務」、即ち、学問上は「損害軽減義務」という法理のアナロジーで、契約責任(及び不法行為責任)を肯定しているのです。

もっとも、この裁判例の事案は、著作権者がクレームをいれた後の対応が頗る悪かったという点に特徴があります。

従って、直ちに一般化できるようなものではありませんが、いずれにしろ、「著作物の利用料」以上の損害賠償が問題になり得ることを示す事例だといえます。





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 ■ArchiveSelection   参考資料 .   


◆ 損害軽減義務について、最高裁判例 .
〔裁判〕(最判平成21年01月19日 平成19(受)102


最近、最高裁においても、損害軽減義務を肯定するかのような判断が出ております。

カラオケ店の店舗賃貸借契約に関して、休業期間の全期間の損害賠償請求をしたという事案で、「被上告人〔カラオケ店〕がカラオケ店の営業を別の場所で再開する等の損害を回避又は減少させる措置を何ら執ることなく,本件店舗部分における営業利益相当の損害が発生するにまかせて,その損害のすべてについての賠償を上告人らに請求することは,条理上認められないというべきであり,民法416条1項にいう通常生ずべき損害の解釈上,本件において,被上告人が上記措置を執ることができたと解される時期以降における上記営業利益相当の損害のすべてについてその賠償を上告人らに請求することはできないというべきである」と判示して、カラオケ店の請求を全面的には認められないとして原審に差し戻しています。







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