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◆ 「報酬の未払いと、著作権譲渡契約の解除 GLAY音楽著作権事件」 【著作権】【職務著作】
〔参考〕「印税未払いで『GLAY』側勝訴 旧所属会社に6億7千万円支払い命令」(MSN産経2009年10月22日)
〔裁判〕(平成19(ワ)28131 東京地裁平成21年10月22日判決)
[概要]
報酬等の未払いがあったなどとして、人気ロックバンド「GLAY」(グレイ)のメンバーが、「アンリミテッドグループ」(東京都渋谷区)を相手取り、未払い報酬等、総額約6億8千万円の支払いを求めるとともに、著作権譲渡契約の解除に伴い、著作権がGLAYにあることの確認を求めた訴訟の判決があった。
裁判所は、GLAY側に著作権があることを認め、アンリミテッド側に、計約6億7千万円の支払いを命じた。
GLAY側は、平成17年10月18日、印税やコンサート出演料などが未払いだとして支払いを催告し、その後、同年11月、なおも支払いがなかったことから、著作権譲渡契約を解除した。
この契約解除について、アンリミテッド側は、「口頭で支払いの用意ができていることは告げていた(受領の催告をした)のに、一方的に著作権譲渡契約を解除された」などと、GLAY側の契約解除が権利濫用であると主張していた。
裁判所は、契約上、振込みによる支払いが定められていること、及び、アンリミテッド側が、一方的に、支払いの条件として別の契約を結ぶことを前提にして支払いをしなかっただけであることを認定し、その主張を退けた。
即ち、「本件著作権譲渡契約とは別個の契約である『GLAYに関する原盤等権利の譲渡契約書』の解釈をめぐる紛争が解決されることを,一方的に,本件著作権譲渡契約に基づく未払著作権印税の支払の前提であるとするものであり,この前提が失当であることは明らかである」と判示した。
結論として、著作権について、GLAY側にあることを確認し、また、請求金額のほぼ認容した。
なお、短期消滅時効の主張も退けられている。
[解説]
著作権の行方について争われたことで有名な事件ですが、判決文で認定されている事案を見る限りでは、単純にアンリミテッド側の法務対応のまずさが目立ち、その結果、著作権についてGLAY(エクストリーム、ラバーソウルなど)側に軍配があがっただけという話のようです。
この裁判で、GLAY側は、平成17年1月1日当時、著作権がアンリミテッド側にあったことは認めています。
その上で、報酬(印税代などと主張しておりますが、裁判所による性質認定は「印税」に限っていません)の未払いを理由に、著作権の譲渡契約を解除したのです。アンリミテッド側には、お金の支払いと引き換えに、別のもの(著作権)を差し出させようとしていたようですが、その交渉術が、完全に裏目に出てしまったわけです。
経緯としては、GLAYがアンリミテッドとの専属契約を終えて独立する際に、本件楽曲の「出版権」を、アンリミテッド側からグレイに譲渡する契約(10億円)が交わされました。これは、デビュー時、専属契約を締結するに際して、「著作権がアンリミテッドに譲渡される」という包括契約(本件で、解除された大もとの契約)が結ばれていたので、その清算を目的としたものです。
ところが、その「出版権」の意味について、両者の認識に相違があり、後日、揉めることになりました。アンリミテッド側は、「著作権」の譲渡まで含んで10億円という安値で契約するはずがない、と主張しております。
このような経緯に照らせば、確かに、「紛争を一挙に解決しておきたい」という気持ちは分からないではありません。しかし、既に発生していることの明らかな報酬をいつまでも未払いのままにしての交渉は、むしろ、不信感を抱かせるだけでしょう。
アンリミテッド側の解除権濫用の主張は、いわば人質をとっての交渉であるだけに、どちらかといえば、苦し紛れとの印象が拭えなかったのではないかと思います。
他方、この事件で注目すべきは、アーティストの労働者性をめぐっての論争です。
結論として、裁判所は(短期消滅時効に絡んでの主張なので)深入りせずに判断を下していますが、ともあれ、「指揮・監督関係には、ない」という方向性での判断であり、これは、今後、フリーランスが著作権について職務著作になるか否かを考えるに当たって、重要な参考例になると思います。
現実の仕事では、フリーランスと言えども、クライアントの要望や、仕様変更要求などに逐一対応するのが一般です。そこで、裁判になるや、クライアント側は、そのような指示が、労働者として働いていたこと、言い換えれば、「職務としての仕事」であったことの根拠としてあげてくることが、往々にしてあります。
音楽アーティストなどは、フリーランスの代表であるようでいて、一方で、マネージメントにかなり拘束されるような印象もありと、その判断に迷うところがあります。同様のことは、アニメやゲーム、雑誌などでのイラストレーターや、作家さんなどにも当てはまると思います。
本件は著名な事件であるだけに、この裁判での主張のやり取りを参考にして、ご自身の立ち位置を確認なさっては、いかがでしょうか。
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(平成19(ワ)28131 東京地裁平成21年10月22日判決)
■ GLAYメンバーらの「労働者」該当性について(17頁以下)
【アンリミテッド側の主張】
a 指揮監督下の労働
(a) GLAYメンバーらは,被告の指示する実演活動を拒否することはできず,仮に,これを拒否した場合には,損害賠償や契約解除の不利益を課せられることになっていた(甲6の第9条)。
また,GLAYメンバーらは,被告が完全であると認めるまで,最善を尽くし,実演を行う義務を負っていた(甲16の第5条2項)。
以上のとおり,GLAYメンバーらには,仕事の依頼,業務に従事すべき旨の指示等に対する諾否の自由は無かった。
(b) 被告が,GLAYメンバーらの実演に関し,逐一細かな指示を行っていたという事実はない。しかし,芸術的,創造的な業務に従事する者については,業務の性質上,その遂行方法についてある程度本人の裁量に委ねざるを得ないのであって,実演の細部にわたる指示をしない場合であっても,このことから直ちに指揮監督関係が否定されるものではない。
GLAYメンバーらはミュージシャンであり,その通常予定されている業務は,音楽の実演活動である。しかし,甲第6号証の第2条には,「@テレビ,ラジオ,映画等への出演」,「D出版物,書籍の出版を含む出演」,「Gその他上記各号に付帯する一切の芸能活動」等の,ミュージシャンとして通常予定されているとはいえない業務が列挙されており,GLAYメンバーらが,被告の一般的な指揮監督を受けていたことを窺わせる内容となっている。
(c) GLAYメンバーらの中心的な業務は音楽実演の収録である。この収録の日時,場所は被告が決定し,メンバーらは被告の指示に従うことになっていた(甲16の第5条)。
(d)GLAYメンバーらに代替性はなく,他の者に労務を提供させることは認められない。
b 報酬の労務対償性
甲第15号証によれば,GLAYメンバーらが労務を提供して得た
収入の一部が報酬として支払われる関係が認められ,労務対償性が認
められる。
c 被告の事業者性の有無
機械,器具,衣装等は被告が負担していた。また,被告には比較すべき正規従業員が存在せず,報酬の額を労働者性判断の要素とすることができない。
d 専属性の程度
GLAYメンバーらは,被告以外の者との間で,実演はもちろんのこと,実演のために交渉することすら禁止されていた(甲6の第1条,甲16の第2条(1))から,専属性は極めて高い。
【GLAY側の主張】(25頁以下)
GLAYメンバーらが「労働者」に該当しないこと
a GLAYメンバーらは,被告の専属のアーティストであり(甲6の第1条),被告は,原告らのマネージメントを行う会社であった(甲6の第3条)。GLAYメンバーらと被告との間に,被告の指揮命令下において労務を提供するという関係はなく,そのような事実もない。
(a) GLAYメンバーらの創作家としての活動
被告は,GLAYメンバーらの作詞・作曲による楽曲を尊重しており,楽曲についてアドバイスをすることはあっても,その指示に従わせるようなことはなかった。
また,アルバムに入れる楽曲の選定や曲順の決定,シングルとして売り出す楽曲の選定についても,被告が独断で決定することはなく,必ずGLAYメンバーらと協議して,決定していた。しかも,被告は,同協議において,意見を述べることはあっても,最終的にはアーティストであるGLAYメンバーらの判断を尊重していた。
さらに,被告は,GLAYメンバーらの判断による活動を尊重し,容認していたから,被告の指示に従わなかったとしても,メンバーらに対し不利益を課すことはなかった。
以上のとおり,GLAYメンバーらの創作家としての活動においては,メンバーらの意見が尊重されており,被告がメンバーらとの協議をしないままに,独断で決定し,指示をすることはなかった。
メンバーらには,被告からの仕事の依頼や業務に従事すべきとの指示に対し,諾否の自由があった。
(b) GLAYメンバーらの実演家としての活動
GLAYメンバーらの実演家としての活動についても,メンバーらの意見が尊重されており,協議を経ずに,被告が独断で活動を決定することはなかった。メンバーらには,被告からの仕事の依頼や業務に従事すべきとの指示に対し,諾否の自由があった。
b 時間的・場所的拘束性の有無
GLAYメンバーらは,自身の創作活動に必要なスケジュール管理及び収録場所の調整を被告に依頼していたにすぎず,被告がメンバーらの音楽実演の収録の日時・場所について指示を出していたという関係にはない。したがって,時間的・場所的拘束性もない。
c 代替性の有無
GLAYメンバーらに代替性がないのは,同人らがアーティストとして,創作,実演という芸術表現をする者であるという特性から,当然のことである。本件において,代替性が存在しないことをもって,労働者性を示す指標とすることはできない。
d 専属性
GLAYメンバーらは,被告に所属しない他のアーティストと競演する際など,メンバーらから,他のアーティストに共演を打診し,当該アーティストとの間で直接話合いを行い,それがある程度進んだ段階で,被告にマネジメントを依頼するということが多々あった。
上記のとおり,実演のための交渉について,GLAYメンバーらが主導的に行い,被告がこれを事後的に同意するという場面もあったのであり,メンバーらの被告に対する専属性が高いとはいえない状況であった。
e 労務対償性について
GLAYメンバーらが被告から受領する報酬は,拘束時間や日数によりその金額が決定されるというものではなく,GLAYメンバーらの活動により得られた経済的利益を,メンバーらと被告との間で分配するというものであった(専属契約書(甲6)の第4条の「報酬」につき詳細を定める「覚書」(甲15)によれば,「甲(判決注・GLAYメンバーら)は,乙(判決注・被告)に対して,下記の規定に基づき報酬を分配し支払うものとする。」と規定されている。甲15の第1条参照)。
興行,コンサート,イベント等で被告が主催するものについて,収支が赤字の場合,被告はメンバーらに対し,支払義務を負わない(甲15の第1条Caただし書参照)。また,メンバーらに支払われる印税も,複製,販売数量に対し支払われるものであった(甲16の第7条1項)。
そのため,メンバーらが被告から受領する報酬については,当然ながら給与所得としての源泉徴収は一切行われていなかった。
f GLAYメンバーらの事業者性の有無
GLAYメンバーらが被告から受領する報酬については,GLAYメンバーらの活動により得られた経済的利益を被告と分配する方式が採られていた。興行,コンサート,イベント等で被告が主催するものについて,収支が赤字の場合,被告からGLAYメンバーらに対し,報酬は一切支払われず,むしろ,被告とGLAYメンバーらとは,興行の失敗の責任を共に負う,GLAYの音楽事業についてのいわばパートナーの関係にあったのであり,GLAYメンバーらには事業者性が認められる。
g なお,実演に使用した楽器については,GLAYメンバーら自身が負担していた。
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(平成19(ワ)28131 東京地裁平成21年10月22日判決)
■ 「弁済の提供」について(34頁以下)
被告は,平成17年11月7日,5億4429万4332円を用意したことを告げた上で,原告らに対し,その受領を催告したとして,これが口頭の提供(民法493条ただし書)に該当する旨主張する。
弁済の提供として,弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告(口頭の提供)をすれば足りるとされるのは,債権者があらかじめその受領を拒み,又は債務の履行について債権者の行為を要するときである(民法493条ただし書)。
証拠(甲7)及び弁論の全趣旨によれば,本件著作権譲渡契約においては,著作権使用料の支払方法につき,「乙(判決注・被告)は,毎年3・6・9・12月の年4回,各月末日をこの契約に関する会計計算締切日と定め,当日までに前条に定められたところに従って発生した本件著作権の著作権使用料についてこの契約の諸条項に基づいて分配の計算を行い,各締切日後60日以内に計算明細書を甲(判決注・著作権譲渡人)の指定する住所に送付し,著作権使用料を甲(判決注・著作権譲渡人)の指定する銀行口座への振込みをもって支払うものとします。」(甲7の第11条参照)旨約定されていたことが認められるから,本件著作権譲渡契約に基づく未払著作権印税の支払債務の履行につき,債権者の行為を要するものであるということはできない。
また,証拠(乙2ないし4)及び弁論の全趣旨によれば,平成17年当時,原告らと被告との間で,「GLAYに関する原盤等権利の譲渡契約書」(甲21)における譲渡対象の権利に本件楽曲の著作権が含まれるか否かをめぐって,見解の相違があり,原告らと被告との間で交渉が行われていたこと,この交渉の際,被告側から原告ら側に対し,平成17年11月7日ころ,上記契約の譲渡対象には本件楽曲の著作権は含まれない(すなわち,本件楽曲の著作権が被告に帰属するものである)ことの確認がされることを条件とした上で,本件著作権譲渡契約に基づく未払著作権印税等合計5億4429万4332円を速やかに支払う旨の提案がされたことがあったものと認められる。
しかしながら,上記提案は,本件著作権譲渡契約とは別個の契約である「GLAYに関する原盤等権利の譲渡契約書」(甲21)の解釈をめぐる紛争が解決されることを,一方的に,本件著作権譲渡契約に基づく未払著作権印税の支払の前提であるとするものであり,この前提が失当であることは明らかであるから,上記提案をもって,「弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をした」ものと認めることはできない。本件全証拠によっても,原告らにおいて,本件譲渡契約に基づく未払著作権印税の受領をあらかじめ拒絶したとの事実を認めることもできない。
■ 「解除権の濫用」について(35頁以下)
被告は,原告側は,「GLAYに関する原盤等権利の譲渡契約書」(甲21)の第1条の文言が,たまたま,出版権(著作権)をも譲渡の対象とするものであるかのようにも解釈し得るものであることを奇貨として,これが契約当事者間の意思に反することを知りながら,ことさらに,出版権が譲渡対象とされている旨強弁したものであり,このような主張は,原告側において,被告が出版権の譲渡の問題が解決するまで精算金の支払を留保し,結果として債務不履行の状況に陥るであろうことを期待して,あえて行われたものであるから,本件解除は解除権の濫用に当たるものとして許されない旨主張する。
証拠(甲21,乙2ないし4)及び弁論の全趣旨によれば,「GLAYに関する原盤等権利の譲渡契約書」(甲21)の第1条には,「甲(判決注・被告)は,乙(判決注・原告エクストリーム)に対し,平成17年6月1日(以下「基準日」という)付をもって,甲が所有する同年3月末日までに制作し完成された「GLAY」(以下「本アーティスト」という)の日本を含む全世界における,原盤および原版(以下,併せて「原盤等」という。),本件原盤等に係るすべての権利(複製権,譲渡権,頒布権,上演権,上映権,送信可能化権,著作隣接権,二次使用料請求権,貸与報酬請求権,私的録音録画補償金請求権を含む著作権法上の一切権利,所有権を含む)ならびに,本アーティストに関する商標権,知的財産権,及び商品化権を含む一切の権利(以上について,以下「本件権利」という。)を完全に譲渡し,甲は,本件原盤等の所有権及び本件権利を喪失するものとする。」と記載されていること,平成17年当時,原告らと被告との間で,「GLAYに関する原盤等権利の譲渡契約書」(甲21)における譲渡対象の権利に本件楽曲の著作権が含まれるか否かをめぐって,見解の相違があり,原告らと被告との間で交渉が行われていたこと,この交渉の際,被告は,原告らに対し,上記契約の譲渡対象に本件楽曲の著作権は含まれないことの確認がされることを条件として,本件著作権譲渡契約に基づく未払著作権印税等を支払う意向であり,原告らに対しても,同旨の提案をしたことがあることが認められる。
しかしながら,本件著作権譲渡契約とは別個の契約である「GLAYに関する原盤等権利の譲渡契約書」(甲21)の解釈をめぐる紛争が解決されることを,本件著作権譲渡契約に基づく未払著作権印税の支払の前提であるかのように主張したのは被告であって,原告らではない(原告らが上記紛争が解決されるまで未払著作権印税の受領を拒絶したものではない。)。原告らは,本件著作権譲渡契約において定められた催告及び催告期間(20日間の期間を定めた文書による催告)を経て,本件解除に至ったのであり,被告において,未払著作権印税を支払おうと思えば支払うことができたにもかかわらず,これを支払わなかったために本件解除に至ったにすぎないのであるから,原告らによる本件解除が解除権の濫用として許されないものであるということはできない。
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