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◆ 「セリフにも、著作権? 銀河鉄道、歌詞盗作疑惑事件」 【著作権】【名誉毀損】
〔参考〕「歌詞問題で松本零士さん陳謝、槙原敬之さんと和解」(読売新聞 2009年11月26日21時17分)
〔参考〕「松本零士さんと槇原敬之さんが和解 歌詞盗用名誉棄損訴訟」(MSN産経 2009年11月26日)
〔裁判〕(第一審)「平成19(ワ)4156 東京地裁平成20年12月26日判決」
[概要]
歌手の槙原敬之さんが、漫画家の松本零士さんに、「漫画『銀河鉄道999』のセリフを盗用された」と非難され、その名誉を傷つけられたとして、松本さんに2200万円の損害賠償などを求めた裁判の控訴審で、和解が成立した。
問題となったのは、槙原さんが作詞・作曲した人気デュオCHEMISTRY(ケミストリー)の歌「約束の場所」の「夢は時間を裏切らない 時間も夢を決して裏切らない」という歌詞と、松本さんの「時間は夢を裏切らない、夢も時間を裏切ってはならない」というセリフ。
和解内容は、松本氏からの陳謝のほか、歌詞について異議を述べないことなどで合意。和解金は生じないという。
[解説]
著作権の侵害が否定されたなどと紹介されている第一審の裁判ですが、厳密には、そう単純ではありません。
この裁判は、【著作権の侵害】に関して言えば、(侵害したと非難された)槙原氏の方から、(侵害されたと主張する)松本氏に対して、(著作権の侵害に基づく)債務の不存在の確認を求めてのものでしたが、その後、この部分の訴えは、松本氏が(本当に、その債務が存在しているかは別にして)債務免除の意思表示をした結果、訴えの利益がないとして却下されています。
また、名誉毀損について、確かに、第一審は肯定し、220万円の支払いを命じていますが、しかし、これは必ずしも、「槙原氏が盗作しなかったこと」までを積極的に認定したものではありません。
むしろ、訴訟における立証責任により、著作権を侵害したとの証明(依拠の事実の証明)がなく、その結果、「著作権を侵害した事実」が真実であるとの証明がなかったとして、名誉毀損を認定したものといえます。ニュアンス的には、刑事事件での「推定無罪」の原則が働いたときと同じように、グレーのまま決着がつけられているという感じです。
これは、【名誉毀損裁判】というものが、原則として、「どのような名誉(虚偽の名誉)であろうと保護する」という建前で始まる結果によるものです。即ち、「盗作した」との事実の摘示があれば、原則として名誉毀損が認められるのです。
そこからスタートして、その後、「名誉毀損であっても違法性がないこと」を、摘示した側が証明することによって、その責任を免れる、という形で裁判が流れていきます。そして本件では、松本氏側が、「槙原氏による盗作」の事実を証明できなかった為、責任を免れないとの結論になった次第です。
そもそも、ワン・フレーズやそこらの短い語句・文章についての盗作(依拠)を証明することなど事実上不可能なので、最初から、法律上の結論は見えていたともいえます。ただ、この紛争の本質は、法的責任云々よりも、クリエーターとしての道義的責任を問うたものでしょうから、訴訟の勝敗と勝負の行方とは別の次元にあったと言えます。
さて、第一審裁判所は、松本氏の発言のうち、まず、「事実の摘示」に当たるか、「意見・論評の表明」に当たるか、を区分しました(判決文197頁以下)。これは、両者によって、名誉毀損の違法性判断(阻却事由)の方法に、やや違いがあるからです。
そして、「摘示された事実」を、3つに分類しています。
ア 電話での会話において、被告表現に依拠して原告表現を作成したことを認めたという事実
イ 電話での会話において、被告表現に依拠せずに原告表現を創作したとは言わなかったという事実
ウ 原告が、被告表現に依拠して原告表現を作成したという事実
そして、それぞれについて次のように結論づけます。
【(ア)について(197頁以下)】
「被告表現に依拠して原告表現を作成したことを認めたという事実の重要な部分について,真実であることの証明がなされたということはできない。」(210頁)
【(イ)について】
「本件電話会話の内容は,前記(2)[注:(ア)の認定部分]で判示したとおりであり、原告は、被告に対して、被告表現に依拠せずに原告表現を創作した旨の発言をしていると認められる。](210頁)。
【(ウ)について(209頁以下)】
「原告表現は、依拠したのでなければ説明できないほど、被告表現に酷似しているとはいえず、被告の上記主張は理由がない。」(215頁)
なお、論評部分については違法性がないとして、名誉毀損が退けられています(217-218頁)。
結局、地裁判決では、認容額が1割の220万円(請求額2200万円)であり、また、控訴審においては、和解で決着し、和解金が生じないということですから、裁判的には、「痛みわけ」ではないでしょうか。そもそも、2200万円もの請求となれば、弁護士に実際に支払うお金だけで220万円は飛んでいるでしょうし・・・。
それすら放棄したということは、槙原氏的には、名誉を守る為の戦いだったのかもしれません。
実際、作品の【依拠】がない場合、仮に偶然全く同じものとなったとしても著作権の侵害とはなりませんので、【依拠】の証明が為されなかったと認定されている以上、盗作が間接的に否定されているとも理解できます。
ただ、本件では、作品の全体のボリュームに対して、相対的にも、絶対的にも、、あれだけ短いフレーズについての依拠を証明するのは、不可能に近いことだと思います。従って、悪魔の証明をやってのけなければ勝訴できない松本氏側が、本当に負けたのか、というとその結論は留保されるところでもあります。
よって、盗作の有無についてはグレーのまま、両者に面目の立つ解決を模索したというのが実情ではないでしょうか。
なお、仮に、本件で、【依拠】があった場合でも、「著作権を侵害するか?」という観点からは、限りなく疑わしい事案であったと思われます。裁判所は、くだんのフレーズについて、「ありふれている」か否かの判断すらしていませんが、既存の考え方では、侵害との認定は期待できないものと思われます。
その意味でも、法律的な結論は、最初から出ていた事案ともいえます。
他方、法律的な論点としては、名誉毀損訴訟における(既存の法理を活用した)総花的な判決となっております。
ただ、テレビ放送の場合、どこまで情報提供者が責任を負うか(因果関係があるか)について、興味深い説示が為されております。ざっくばらんに言えば、編集が介在するものについては因果性がなく、生放送のようなものについては、責任を負う余地がある、という感じです。
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(平成19(ワ)4156 東京地裁平成20年12月26日判決)【一審判決】
■ 「著作権侵害に基づく損害賠償請求権(の不存在)」について
(161頁以下)
原告は,被告に対して,平成18年8月10日に原告歌詞をトラック・ダウンする方法でコンピュータのハードウェアに蔵置したことについて,被告の,原告に対する,別紙文章目録記載の文章の著作権(複製権,翻案権)及び同一性保持権に基づく損害賠償請求権がないことの確認を求めているが,被告は,平成20年8月29日の第9回弁論準備手続期日において,上記の各請求権を放棄する旨の意思表示をした。そして,被告の上記意思表示は,債務の免除の意思表示と解され,免除の効果は,権利者の一方的な意思表示によって生じるものといえる。そうすると,被告の上記各請求権は,仮に,その発生が認められたとしても,上記の意思表示により消滅し,原告が,将来,被告から上記の各権利を行使されるおそれは存在しない(なお,被告が,今後,上記各権利を行使するおそれがあることを認めるに足る証拠もない。)。
したがって,原告の上記の請求権が存在しないことの確認の訴えは,確認の利益が存在しないことが明らかである。
以上のことからすると,原告の上記訴えは,不適法な訴えとして,却下されるべきである。
■ 「事実の摘示か、論評か」について
(193頁以下)
名誉毀損の成否が問題となっている表現が,事実を摘示するものであるか,意見ないし論評の表明であるかは,当該表現が,証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的に又は黙示的に主張するものと理解されるときは,当該表現は,上記特定事項についての事実を摘示するものと解するのが相当であり(平成9年最判参照),他方,上記のような証拠等による証明になじまない事物の価値,善悪,優劣についての批評や議論などは,意見ないし論評の表明に属するというべきであるが,当該名誉毀損の成否が問題とされるのが法的な見解の表明である場合は,それが判決等により裁判所が判断を示すことができる事項に係るものであっても,そのことを理由に事実を摘示するものとはいえず,意見ないし論評の表明に当たるものというべきである(平成16年最判参照)。
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